続・首都特別行政区の姿

1999年08月04日

by OUTSIDE

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 この日はちょうど桜の開花日でもありました。新首都の完成を祝うかのように、桜が一斉に開花して新国会議事堂もさくら色に包まれました。西暦20XX年4月1日、48番目の県となる首都特別行政区が誕生しました。新首都は畿央地域に移転し、自然を生かした都市がクラスター状に配置されました。純和風に建てられた新しい首相官邸の前には、信楽焼タヌキの焼き物が置かれています。特別区の名称は全国から公募され、新しい都の名前も決まりました。

 午前9時、新国会議事堂前の広場にて、首都移転記念式典が盛大に開かれ、式典の模様は全世界に生中継されました。そして、天皇陛下により首都の移転が宣言されました。その後、国会内では、衆参両院で国会移転記念式典も行われ、新国会議事堂での初めての国会が開催されました。今回は、前作では書ききれなかった首都特別行政区の姿をご紹介します。

 今回の日本の首都機能移転は、全世界からも注目を浴びています。新首都は京都、奈良、飛鳥、伊勢といった日本人の心のふるさとに囲まれているだけでなく、新首都自体も、世界的に有名な、忍者や松尾芭蕉を生み出した土地であり、日本のアイデンティティー(独自性)を世界に向けて大きくアピールすることができました。また、関西文化学術研究都市やびわこ文化都市、鈴鹿サイエンスパークに近いこともあり、日本の先端技術も世界に向けて発信できたのです。

 さて、新首都には、危機管理機能も求められます。防災面で新首都は優れているのしょうか。新首都は、災害の少ない場所でもあるのです。地震の危険性については、東海地震や南海地震の海溝型の大地震の震源からは遠く離れているので、海溝型地震の影響はほとんどありません。ただ、活断層があるので直下型の地震が起こる可能性があります。しかし、活断層は全国のどこにでもあって地震を避けることは不可能でしたので、防災面に考慮した都市計画のもと、地震に強い街がつくられました。また新首都は内陸部にあるので、津波の心配はまったくありません。周辺には火山が1つもありませんので、火山の噴火の危険性もないのです。新首都は雪の少ないところでもあります。年に何度か雪が積もることもありますが、ほとんどが昼までに融けてしまいます。台風による大雨や事故の影響で、新首都へと通じる道路が不通になることもありますが、新首都に至る経路は多重化され複数確保されているので、新首都が陸の孤島になることはありません。このように新首都は、災害に強い都市なのです。

 昨今の異常気象により、全国各地で災害が相次いでいます。新首都の危機管理機能は活用されているのでしょうか。大型の台風が東京を直撃し、東京の都市機能はマヒ状態に陥りました。台風の通過により、関東北部から東北南部でも大雨が降り、火山の大噴火もあった影響で土石流も発生し、交通は完全に遮断されてしまいました。大雨の影響は当地だけにとどまらず、下流の関東東部地域にも大きな被害を与えています。しかし、政府は新首都に設置された中央危機管理センターで迅速に対応し、被害を最小限に抑えることができたのです。

 新首都は、規制緩和のモデルにもなっています。電力供給の地域独占制度が廃止され、新首都へは中部電力と関西電力の両電力会社が電力を供給することになりました。そのため、新首都の住民や企業、政府は、どちらの電力会社を利用するのかを自由に決めることができ、料金だけでなく、クリーンエネルギーの比率も考慮して電力会社を選んでいます。建物の太陽光発電の買電でも、高く買い取ってくれる電力会社を選択することができるでのす。市内電話通信網も同じように、NTT西日本、中部テレコム、大阪メディアポートの3社が競争を繰り広げています。

 日曜日のある日、新首都にあるサッカー場で地元サッカーチームのホーム試合が行われ、多くのサポーターが詰めかけました。サッカーチームといってもJリーグではなく、女子サッカーのLリーグです。女子サッカーはワールドカップで決勝トーナメントに進出するなど、めざましい活躍を見せています。ここ新首都に本拠地を置くFCくノ一は、古くからの強豪で、いつも優勝争いをしています。この日は優勝をかけた旧都東京をホームとするベレーザ戦で、いつもに増して盛り上がっています。新首都に女子サッカーチームがあることで、最近は女子スポーツにも関心が集まっています。

 夏、新首都の住民達は、関西の軽井沢とも称される青山高原へと出かけます。夏の青山高原は涼しく、多くの別荘や、企業や政府の保養所が立ち並んでいます。国会議員の中にも、別荘を持っている人がいるようです。この青山高原で真っ先に目に飛び込んでくるのは、東洋一の巨大な風車です。新首都周辺の山の上には、青山高原の笠取山を中心に風車が100機以上設置され、風力発電が行われています。風力発電の電気は新首都で消費する電力の重要な部分を担い、二酸化炭素の排出を押さえると同時に、新首都のシンボルにもなっています。また、青山高原から望む新首都の建物の屋根には、太陽光発電のパネルが光り輝いています。このように、新首都は環境にやさしいクリーンエネルギーのモデル都市ともなっています。

 この青山高原は室生赤目青山国定公園内にあり、新首都は他にも鈴鹿国定公園、琵琶湖国定公園、大和青垣国定公園と、4つの国定公園に囲まれています。また、その周辺部を伊勢志摩国立公園、吉野熊野国立公園、高野龍神国定公園、金剛生駒紀泉国定公園、明治の森箕面国定公園、若狭湾国定公園、揖斐関ヶ原養老国定公園が取り囲んでいます。新首都内でも、赤目都立自然公園、月ヶ瀬神野山都立自然公園、笠置山都立自然公園、金勝信楽都立自然公園が指定されています。そして、新首都を取り囲むように東海自然歩道が整備されていて、新首都の住民達はハイキングを楽しみます。東京から続く東海自然歩道は、新首都に入ったところで2手に分かれ、北ルートは新首都を横断し、南ルートは新首都の外辺部を半周し、新首都から出るところで再び合流して、大阪までを結んでいます。

 また新首都の住民達は、休日に近くのテーマパークへ遊びに行くこともあります。近場では、鈴鹿サーキットや奈良ドリームランドが、ほんの少し足を延ばせば、ナガシマスパーランド、志摩スペイン村、伊勢戦国時代村、ユニバーサルスタジオジャパン、ひらかたパーク、エキスポランドなど、多くのテーマパークが新首都を取り囲んでいるのです。

 秋には、母都市となった上野市で上野天神祭が行われます。鬼行列を先頭に、コンチキチンと鐘を鳴らしながら、優雅なだんじりが街を練り歩きます。新首都の美しい日本の風景の1つです。


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