首都機能移転シンポジウム (詳細版)
1999年09月11日 ふるさと会館いが
主催:三重・畿央地域首都機能移転連絡会議(三重県・滋賀県・京都府・奈良県)
by 山下さん 概要は → こちら
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・ 日時 平成11年9月11日 会場開始 14:00〜16:30 ・ 会場 伊賀町役場前 ふるさと会館いが大ホール ・ 主催 三重・畿央地域首都機能移転連絡会議(三重・滋賀・京都・奈良) ・ 講師 基調講演 中村 英夫氏 武蔵野大学教授・国会等移転審議会委員 ・ パネルディスカッション コーディネーター 平本 一雄氏 三菱総合研究所取締役社会環境センター長 パネリスト 石森 秀三氏 国立民族学博物館教授 金森茂一郎氏 関西経営者協会顧問・近畿日本鉄道代表取締役 紙野 桂人氏 帝塚山大学教授・大阪大学名誉教授 佐々木俊一氏 日本経済新聞社大阪本社代表室企画委員 ・ 会場に見る主な出席者 中井・川崎両代議士代理秘書・上田三重県副知事 伊賀選出県議会議員5名全員・上野市長 他府県、滋賀県議会議員ヤモリ・サワダ・ウラタノ各氏 土山町長他多士多才。
会場の固定椅子席は目分量でざっと600強。それに組立椅子を並べて約650、それでも足らず立っている人がいましたが、動員数700は遙かに越えてその先はどこまで入ったかというところです。
会場受付は、県関係者・市町村関係者・経済界と分かれて設置。休憩時のロビーや喫茶室の様子を見ると、おそらくこの会館開設以来の入場数ではないかと察するにぎわいです。
定刻通り14:00スタート。司会者から本日のプログラム説明のあと、本日の主催者を紹介しました。主催者側として京都・滋賀・奈良・三重の1府3県(略してケイジナミと呼ぶようです)を代表して地元三重県上田副知事が挨拶しました。
三重県上田副知事 挨拶内容要旨
私ども畿央は4府県34市町村、関西・中部の結束点になります。8月5日の京滋奈三知事会議で、共同して宣伝すると確認しました。そして経済界他関係諸団体のもとシンポジュウムする事になりました。中村先生の話は滅多に聞けるものではありません。10月には4府県で、私どもに答申いただけるよう審議会に要望する予定しています。よろしくお願いします。
中村英夫氏の基調講演
話をさせていただく機会いただきましてありがとうございます。本日は5つ程の点についてお話したいと思います。
1.何故首都機能移転が必要なのか。
2.他国に見る首都の様子。
3.私達日本ではどんな首都、新都市を目指すのか
4.それをどこにつくるのか、立地条件に関すること
5.どうやって選ぶか、選定方法以上のようなこと語ってみたいと思います。
1.神戸の地震からどうしてもやらねばならない大事なことと思いました。皆さんも共感してくれると思います。ちょうど、土木学会・会員4万人の会長していた私は復興現地調査に関与する機会あってショック受けました。日本はあれほどの被害がいつどこで起こっても不思議ではありません。そんなところに住んでいます。あんな地震が来るものとして、それでも安心して住めるようにと考えたら、一体どうしたらよいのでしょう。
例えば東京。建物のものすごい広がりが続きます。計画的に作られたものではありません。バスが交差できない道がたくさんあって、これで地震が来たら車が燃える電柱が倒れるで逃げることも助けることもできません。こりゃ大変です。神戸に起きて大変だったけど、東京に起きたらもっと大変でした。日本の首都東京の混乱は国内ばかりでなく世界にも影響及ぼします。一極集中は一面効率的でもあるけれど地震が来たら怖いですね。
地震対策・危機管理これはどうしてもしておかねばなりません。
(2)人心の一新があります。これまでの日本史は遷都で歴史。社会が変わってきました。しかも良い方向へ変わってきました。今回も同じ事、期待できます。我が国は疲労している部分が多い。その部分を改革すれば良いではないかという声もありますが、根本的に立て直すには部分の改革ではすみません。また地方分権にも大いに期待できます。
(3)東京は一極集中で大きくなりすぎました。この傾向はこれからも続きます。これにブレーキをかけることはできます。東京3,700万、首都に予定している人口が60万です。これで東京の過密はなくなりません。しかしこれからも続く集中化に歯止めをかけることはできます。
2.オーストラリアはメルボルンからキャンベラに移りましたがここは完全に人工都市です。ブラジルもブラジリアという全く人工の都市・首都を作りました。最初は批評浴びました。都市基盤のないところに町を作るのですから、当初は住民にとって何かと不便なことあるのは当然です。しかし今では町も成熟してきて、首都動かして良かったという意見多いのです。
ドイツのボン。この小さな町に首都作りました。ナチの悪夢に繋がるベルリンからボンに作りましたが、東西統一してからまたベルリンに戻ろうという動き、でてきています。幾つかの機能はボンにも残しますが行政や政治・司法などを国内に分散しています。
むしろ世界的に見ると先進国では機能が分散している国の方が多いですね。何もかも集中していると効率はよいので、これから頑張って追いつかねばならない途上国に一極集中型の首都が多いのです。
3.私達の考える首都は、行政・政治機能は移すが首都機能の全てを移すものではありません。例えば皇居は残ります。どんな都市かというとクラスター型だと言われています。クラスター、葡萄の房のようなものです。小都市群から成り立ちます。何故そうするかというと、大きな都市にするにも土地がいっぺんに取れないと言うこともありますし、小都市の方が生活利便性や環境に有利です。面積マキシムで9,000haです。この周辺の1つの町の規模で10,000ha。信楽町で16,000haですか。こういう例があるのかというと大規模なものではシンガポールです。10万ha、淡路島位の大きさに全体が10万都市です。生活は数万人位の小都市が点在する、その各都市がそれぞれ機能し、その中で生活します。
どんな都市かというとそれは文化的であり環境と調和していること。世界に向けての首都でありますから風格が必要です。更に最先端の科学を使って機能的に、誰もがここに住みたいと思うような都市を造ります。
その費用ですが、税金として使う公共投資額は4兆円。その他民間から導入して総費用は10数兆円になります。15〜20年程かけるので年間の税金使用は2,000億程ちょっとになります。年間国家予算全体の約1/200・0.5%程です。これどの位の規模のプロジュクトかというと第2名神で10兆ほどです。既存のものを可能な限り使って新しく空港を作るようなことはしません。このお金は小さいとは言わないけれど、それよりも費用対効果が大きい。東京は130年使いました。今度は何年使うかわからないけれど効果で言えば圧倒的に有利です。
4.東京から300kmであればここがリミットです。あんまり離れては困るがしかし東京は世界都市です、近ければ影響され、吸収されてたりしては困ります。100km以上は離します。
地形的に複雑だったり、地震・噴火等災害があるのも困るし、水もいる。環境を破壊するようなところは困るし首都にふさわしい景観もほしい。周辺の景色は美しくあってほしいです。汚らしい建物や電柱・品のよろしくない看板などが林立していてほしくはない。国内からも世界からも交通の便の良いことが必要です。周辺の都市と近からず遠からずの距離にあること、土地の取得が容易であることが大事です。
5.これまで申し上げたのは条件です。それではどうやって決めるかということが問題になります。それにはわかりやすく公正に行う事が一番大事なことです。
大学先生とか交通のエキスパートとかその道の専門家が集まって16の評価項目作って審議会設けました。東大総長の有馬さんや堺屋太一さんなどもおられましたが今はお二方とも内閣に取られておりません。
それぞれ比較検討していると景観と交通とどっちが大事、というようなことが生じてきます。可能な限り分かり易く客観的に判断して総合的に重みをつけます。評価に盛り込まれなかった項目もあるかも知れません。その他にも東京に置いといた方がよいのかどうかもう一度チェックしてみようとか、影響度はどうなのとかあります。買い占めなどならないよう、そういう方面にも手を打たねばなりません。
そういうことを総合的に判断して審議会として答申し国会で決めます。
言い忘れた大事なことがあります。
地震に対して計画して作ります。火山の噴火を避けることはできても地震は日本中ならどこにも来ます。新首都に来ないという保証はありません。しかし被害は、対策をしてある新首都と今の東京では雲泥の差になります。都市計画はしっかりしています。建物は現在の知識で造ります。神戸でも現在の技術で作った建物はほとんど被害がありません。だから地震が来ても旧都市と比べたら被害は格段に違います。災害のない安定した首都を作る事はプロジェクでは最も大事であります。
どこに決まろうが移転地だけの問題ではありません。日本中がサポートして進めなければなりません。どこに決まるのかは私も全く知りませんが、公平に決めます。ということでありがとうございました。
14:50終了。パネルディスカッションは15:00過ぎ始まりました。
パネルディスカッション
壇上に向かって左からコーディネーターの平本氏。間を置いてパネラーの石森・金森・紙野・佐々木、各氏の順でした。
コーディネーター平本氏から。
平本:中村さんから学んだばかりですが私の言葉に直すと、私達は目標を失っている様に見えます。21世紀に向けてどうあればいいかわからない。だからこれをきっかけにして世界に向けて貢献できるものは何かとういうようにもって行きたいことと、もう一つは改革の軸にしていこうというようなことがあります。他には指摘されたとおりですけど、2つに東京一極の集中の弊害、3つに災害の危険性への対応、4つ目に今のままでは東京も改造できない、東京のためにも必要、というようなことが言えますか。
私も世界の都市みてきたが、首都というのは必ずしもその国で一番大きい都市ではありません。首都に何でもかんでも集まっているのはむしろ珍しい方で、先進国の欧米では特にそうです。その中でフランス・パリだけはその珍しい方に当たり何でも揃っているけれども、イギリスでは実は首都機能の半分以上がロンドン以外に広がっています。ドイツはベルリンとボンの2重制だし、イタリアはローマが首都ですが、ミラノが経済首都になっています。ということで先進国ではオールマイティは少ない。アメリカはじめ名だたる諸国は皆そうです。一方途上国では多い。発展したい国は一極集中させて、その方が効率がいいから、機関車にして進めて行きます。日本はそういう意味ではまったく途上国型です。
一極集中は止まったよ、という東京都民の方の反論もありますが、それでも何故行わねばならないのか。全面移転か条件付き移転か、首都機能移転の意義とか必要性のその辺りを各パネリストに聞いてみましょう。
石森:この問題については素人です。委員でも何でもありません。私自身はこれまで懐疑的に考えてきました。5大紙の幾つかは社説で白紙に戻せとか凍結せよと論じています。首都機能を移転する前にすることあるだろう。国と地方自治体合わせて800兆以上の借金抱えて苦しい中で、リストラや高い失業率最悪の中で移転は果たして必要か。こんな調子で訴えています。
今年になって進展を初めてマジに見直してみました。重要ないろんな問題含んでいます。財政苦しいだけで見送るようなことではありません。
その一つに、このままで21世紀迎えて盤石か、という日本の国際競争力の低下があります。これ国民が自覚している以上に弱くなっています。
ジュネーブに国際経営開発研究所という47カ国を対象に国際競争力を計る、いろんな指標を発表している機関があります。その'99年版を見ますと、総合評価で1位がアメリカ、2位シンガポール、他にアジアでは香港が7位です。日本はというと16位です。日本の弱点を見ていくと起業家の部47位、つまり最下位なんです。起業家が育つような創業するような環境ではないと。他、外国労働者の受け入れ47位、企業と政府の変化対応力は46位のブービー賞。金融機関の情報公開度も46位公共財政の運営45位、大学教育も45位です。他にも低い項目たくさんあります。こんな日本に誰がした、借金まみれに。それは政官癒着が政治を弱めてきましたのです。外国は日本を土建国家と呼び、このドケンコッカも日本発国際語として定着しつつあります。こういう構造が何故できた、このままにして21世紀を迎えたなら展望は開けません。大幅なシステム改造を行い小さな政府、地方分権を進めなければなりません。ドケンコッカ的発想で単純に首都が移動しただけではダメなのであって、21世紀の新しい日本の息吹の構築に我々は取り組み、伝えねばならないのではないか。そこに首都機能移転があるのだ、と今ではそう受けとめています。
金森:私の会社が日頃お世話になっておりましてありがとうございます。私が何故首都機能移転に関心持ったのか、そしてまた「畿央」という言葉はどの辞書にもございません。この様なこと少し説明させていただきたいと存じます。
伊賀高原ですね。東京から帰ってもうまもなく大阪という時、上空通ります。緑の開けた地域が見えてきます。ここはいいところだなと思って参りました。
前原という弁護士がおりまして、この話題になりました。だったらこの伊賀高原もいいじゃないか、移転地には相応しいのじゃないかと意見一致いたしました。しかし伊賀では忍者とかでどうも明るいイメージではない。受けないのじゃないか、近畿の中央で「畿央」というのはどうだろうということで、この言葉をつくったのでございます。それと共に首都にふさわしどうか詰めて研究してみようということで私も参加して約20名位、皆仕事持っているのですけれど、私、場所を提供して80数回、18:00〜21:00位やりまして研究の成果をパンフレットにして配っておりますと、いろんな方の目に止まり取り上げていただいた。我々の案をもとにして三重畿央の場所を推進して貰ったという次第なのでございます。個人の集まりから発したというのは他の地域と異なるところで知事や行政から発したものではございません。
何故移転かと申しますと危機管理がまず何より大切と考えます。私達の拠点の1つが潰れたとしても他機能するようなシフトが保険として必要であろうと考えるのでございます。
もう一つ、普段言ってこなかったことがございます。
21世紀に向かって今日本はどういう状態に置かれているか。これから特にビジネスの世界ではボーダーレスの時代に入って参ります。私の様な鉄道事業及び関連事業にしてもそうでございます。このまま迎えては日本としてのアイディンティティがなくなります。世界に飲み込まれてしまいます。世界化していく仮定で自己主張せざるを得なくなってきます。日本がその自覚を持たずして突入するのは大変危険です。
場所を選定するのは我々の世代ですけれども、育てていくのは次の世代です。その時日本人の自覚を高めていく、この周りは民族遺産に取り囲まれています。これが今、この畿央で考えなければならない1つでもあります。他にも考えなければならないウエイトたくさんありますが、日本精神への回帰、首都を育んでいく過程で取り返せること、できるのではないかと考えており、この事が今私の情熱を駆り立てております。
紙野:私からはつけ加えますと1つ。世界はここ10年で全く変わってきています。アメリカ、EU諸国、東南アジア、ロシアも立ち直る過程にあります。大経済変動のうねりの中で我が国も立ち直ることができるのか。
ヨーロッパはキリスト教諸国であることはいうまでもないことですがそのキリスト教では新しい1000年紀というものに非常に関心もっています。その中でもイタリアは今、有名な協会はじめ聖堂等2000年に向けてあらゆる大改修しています。リフレッシュされた文化財を一挙に提供しようとしている。これはキリスト教の特徴です。これに立ち向かうに我々は何もしていない。システムは一切動かない。こういう中でこれから日本が考えなければならないことを1つだけ申し上げる。世界は解決策を求めて主張のルツボと化していく。2000年以降解決策を求めて活発な協議交渉が展開されるが、これがいずれアジア環太平洋での諸国・民族の協議体が必要となってくる。この時主催するのは誰か。北京かシンガポールか香港か、東京もその一つといえるか。手垢がついていて協議するような場所に選んでもらえるか。NOです。しかしそうなるとこれはアジアにとっても損失になります。これからの1000年紀に向けたアジアのほんとの都が必要となってくるのです。これができるとアメリカもロシアもアジアを無視できなくなってきます。世界の政治協議を行う事の出来る都をつくること、この様な貢献が日本にできるかどうか、ここが私達に試されていることでもあり、目指すところとなってくるのです。
佐々木:マスコミで禄をはむ者ですが、個人として言わして貰うと、どこにいてもチャンスに恵まれた都市づくりというものを実現できたらと思います。それは地方分権です。もう一つは面白いこと、地域ごとに違う方が面白いじゃないですか。キーワードは多様性です。その点アメリカなどは面白いですね。ピッツバークは大学2つをてこに、パイレーツで町を盛り上げています。アイオワ州、広大な地平線までトウモロコシ畑のど真ん中に大学1つの小さな町があります。ところがこの大学、ロボット工学の世界的権威です。世界中から学生集めて注目されてます。地域毎に異なった魅力持っている方が絶対面白いですよね。
現在日本は一極集中していますが、これからは一極地方分権から多極地方分権へ進んでほしい。これ関東に住んでいるとこうなります。多極多角型であってほしいと思います。
現実の流れは反対の方向に向いてます。東京への人口増加、流失が流入上回ったととしていますが、そんなことはありません。増えています。また企業なども、大阪上場の企業が東証に移動する動き止まっていません。一極集中化は止まっていないのです。例えば吉本興業といえば大阪のお笑い・文化そのものではないですか。その吉本興業が今は東京支社ですが、本社にして大阪・東京本社2本立てにします。そしていずれ東京本社1本立てにすると戦略たてています。そういう傾向の中で首都機能移転とは何かと捉え、考えたいと思います。
平本:それでは次の話題に移りたいと思います。
ベルリンに行って参りました。ベルリンは今どこもかしも工事中だらけです。国会議事堂では帝国議事堂をリフォームしています。議会の天井てっぺんにガラスのドームを作り螺旋階段を巡らしてあります。そこからベルリンが展望できるわけですが、階段を下りてくると議事場も見下ろせるという仕掛けなのです。ベルリンの再開発は世界有数の建築家を集め、歴史に残る建物を次々に新築・リフォームしています。一方ボンにも残すべきものは残してベルリンとは違った役割を果たそうとしています。首都になる前10万ほどの古都だったボンは歴史的伝統的な町並みが残っています。落ち着いたたたずまいです。時代を見据えて国内にバランスよく配置し展開しています。ドイツでは首都に何を求めているのか読みとれるような心地します。
移転に何を求める、日本の場合の首都機能のイメージ像をお尋ねしたいと思いますが、それではまた石森さんからお願いします。
石森:時代によって首都に求めるものは変わってきます。明治の頃は列強に追いつき追いこせで近代に立ち向かってきましたが、国民の欲求のよりよい豊かな生活を求めて経済追求するには東京1極集中は効率が良くてこれまでの東京は間違っていなかったと思います。しかし21世紀に向けてこのままで良いのかどうかは問題です。先ほどの紙野先生の話にあったように世界は大きく変わりつつある。金森さんのお話のようにボーダーレスがドンドン進行していく時代に佐々木さんの指摘、キーワードは多様性でした。これまでは経済至上主義の時代に1極集中の効率の良いシステムとして首都東京があったのですが、21世紀に向けて国家デザインを描くとき何より時代の変化を見据えて首都をイメージしなければなりません。経済立国も貿易立国も情報立国も文化立国もアジアとの連携を高める国際協力立国も皆大切です。そういう多様性を求められる中で21世紀に見合う様々な新しい機能を日本の中にバランス良く配置し、集中型ではなくて分散型によって時代に対応する首都機能を我々は考えて行かなくてはならないのではないかという風に思います。
平本:佐々木さんにご意見伺いたいのですが、国土庁中心に審議されていますが新都市移転するのに全ての機能を一括移転しようとしているのですが、この通りすればよいのか、多少他にもやり方があるのかこのあたりはいかがでしょうか。
佐々木:先ほど多極多角と申し上げましたが、あえて申し上げますと分割移転の方がよいのじゃないか、ある程度東京に残しても良いのじゃないかと思います。
先ほどドイツの話が出ましたが、ボンには食料・農林環境・自然保護・教育や原子力安全・科学研究・国防など12分野を残し、ベルリンでは議会・広報・首相官邸・外務・大蔵・建設・労働・高齢者婦人青少年など18分野を設置し互いに支店おいています。しかも互いに出張所を置いて連絡取り合って、やってみて不都合があると変えていくんだと柔軟に対応しています。外国との交渉や危機管理的なあるいは国際摩擦が非常に激しいものと、そういう分野を1つまとめている。そこにない文化的なもの基礎研究的なものとを配置していく。発想を変えることによって新しい時代に対応しようとしているのではないかと思いますし、また違ったものが見えてくるのではないかなと思います。
平本:次は金森さんにご意見伺いたいのですが、一括移転と絡んでくるかも知れませんが何か特別な機能のようなものを対象にして移すといったようなご意見ありますか。
金森:いや私は元々一括移転は考えておりません。今度の国会等の法律でもいっぺんに全部移すというようなこと考えておられないと思うのですね。先ほどの基調講演でも費用のこと触れられてしました。審議会で計算された根拠は、まず国会を移すと、10年ほどかかって約10万人の都市をつくる。この費用が約4兆円。約半分は民間、税金使うのは2兆3000億円ほど。年間2000億くらいの支出かなというのがその根拠ですね。次に行政、それも省庁半分位を移す。それが7,5兆円ですが、これもその内実際に税金使うのは半分が税金、後は民間。それでもし全部移ったらと仮定して数十年の長い期間です。試算したらそれでも12兆円位なんですね。この様な資料が発表されておって、これから見てもいっぺんに移すというのではありません。あと東京に残るのは何かというと世界の経済都市して活躍して貰う。これは放っておいてもこれからまだまだ伸び続ける。だから経済・産業に関わる監督官庁は東京に残す。臨機応変的な即応を求められる省庁ですね、こういうものは東京に残し反対に長いスパンで取り組まねばならないような、例えば文化的なものや他色々あると思います。こういうものは新首都に移します。
もう一つつけ加えたいのは、これから日本にとって大事になってくるのは司法機能だと思います。今、裁判が非常に長い期間かかります。刑事ではオームのようにいつ結審するかわからない。民事もそうです。結審できなければ前に向いて進まないしお金もかかり過ぎます。アジアにしても司法による統治は遅れています。進んだ司法システム作って日本が充実すると共に、ハーグの様な国際裁判所のアジア版を新首都に設ける。これで日本がアジアに貢献できる立場が作れます。そういうような姿を考えているところです。
平本:私あまりなじみがないのですが、これから司法機能というものが大事になってくるように思いました。次に紙野先生に新首都像というようなもの、例えば地域の構造とかからご意見伺いたいと思います。
紙野:空間像というようなものについて意見求められたのですがその前に申し上げたいことあります。関西国際空港を例に取ります。エアラインがどういうものを求めるのか従来の経験聞きながら作っていくと、これ現在の延長線上のものしかできません。これはこれでよいのですが、貨物の取り扱い技術はドンドン進化しています。つい先日まで常識であったものが次の時代では全く通用しないというようなことが現実のものとなってきています。そこでパリの空港公団のアンドリュースに全く新しい発想で考えてくれないかと当時の計画部局が依頼しました。それは非常に斬新なアイディアであった。けれどもそれ見た日本の航空関係者はビックリし反発しました。しかしそれは合理的でありかつシンプルでありわかりやすかった。それで納得させて、最終的にイタリアの建築家レッドピアノがコンペに勝ってああなりました。いま特に外国から大変高い評価をして貰っています。外国から関空の知名度高いです。
新首都つくる時も、現在の霞ヶ関の体系の延長線上で考えてはダメだし現在の政界人のビヘイビア行動意識に合わせてもダメ。機能を位置付けていくときには現状の延長で考えたり分割したりしてはダメなんで、新しいものを想定して、それによって元の霞ヶ関がどう変わるのかと考えて東京も生きながらえねばならない。
首都もまず移すべきものは移して、両方の変化を引き出していく事が大事じゃないかと考えます。
1つのコアとして協議の場としてアジア外交を考えたらいかがでしょう。先ほど金森さんおっしゃられたアジア版国際司法機構と一体化すれば非常に有効ですね。
首都機能とそれを支える生活都市とは分けて考える。世界からの参加という事を考えてあげねばなりません。諸外国に開かれた外国高官に住み易い環境を考える。賃料の高いのはだめです。全てが合理的にコンパクトでなければなりません。
先ほどクラスターの話が中村先生から出ましたが実は私どもが提唱し、関西文化学術学園都市がクラスターシステムのはしりです。まあそこは全体を結びつけるファクターが弱くてもう一つうまくいっていないのですが、1つ1つのクラスターがコンパクトで強くむすびついて一体感あることが大事です。
もう一つ。ローマ人が考えておったローマの都市はローマなるものを公の場と考えていました。公にいる人間には保養が必要になります。そこで郊外に保養所や別荘と公務に就く家と両方持ちました。これからの首都はこれくらいの余裕が必要でしょう。郊外に保養ビレッジがあって良い。今、私の頭の中にあるのはこういったものです。
平本:それではもう一点お聞きしたいのですが。首都機能移転に対して、三重畿央地域がどのような貢献できるのか。この土地の特色・独自性が何かということ。東北、北東地域は自然が豊かだと通常イメージされている。東海地域は比較的産業が発達して先進的なことやろうという気風が強いと思われている。三重畿央地域は歴史文化に恵まれているとなっているようで、候補地でもそれぞれイメージが違う条件が違う。畿央についてはどのような特色があるのか、貢献できるのか、この様なことについてご意見伺いします。
佐々木:ようは価値観の持ち方でしょう。全国に向けて指令出す仕事をするのは甲子園で優勝したみたいなもんだと霞ヶ関の官庁はおっしゃいますが、甲子園は毎年優勝チームが代わります。霞ヶ関は地域と固定してずっと継続します。三重畿央の人々が1つの日本の大きな中枢発信源になろうと思われるのかどうかが分かれ目になるのじゃないですか。
現在の首都圏がありそこに日本の中央部分にもう一つの核がある。私、個人的には沖縄が文化的に3番目の核と思うのですが、そういう核になっているのが我々の地域なんだと、そこで発信地として面白いこと考えてやろうかという気になるのか、いやそんなものは要らないよとなるのかが分岐点になることでしょう。
そこで具体的なこと申し上げますと、広域連携の協議会がこの6月に出来ました。福井・大阪・和歌山・兵庫の4県ですね。霞ヶ関に執着するか地元で頑張るか、公務員も人によって違うのですけれど、こういう新しい大きなフレームで物事を考え実行したいという人もいるんじゃないでしょうか。東京でなくても大きなフレームで考えることが出来て良いんじゃないか。そこが地方を面白くしていくのではないでしょうか。
例えば経済界がお金を出し合ってヨーロッパに常駐して向こうの文化首都プロジェクトや国境を越えた市民権のあり方だとか地方制度の詳しいシステムだとかを吸収して首都づくりに生かしていく。2〜3週間の滞在ではなくて常駐してやる。或いは大学を派遣する。首都が来ようと来なくとも、そのようなソフトプロジェクトを大いに考えて実行して地域づくりを進めていく。そのような事を起こすやる気を持っているかいないのか、その価値観のところですが、そのような事業を興し提案をしていく役割・使命を三重畿央地域の人々は持っておられるんじゃないかと思います。
平本:金森さんの方から何か一言ありませんか。
金森:東北、北東地域は移転することの意味からすればナンセンスです。ここは東京の外縁です。いわば首都圏にあります。東京に対峙してもう一つの核として首都機能移転するのですからここに移転はナンセンスです。何故首都機能を移転するのか、そのバランスからすれば移転地は東京の東ではなくて西になります。しかも東京に拮抗できる力を持っていなくてはならない。するとその西の潜在的な力を見て東西のバランスを見たら東海中部・関西地域の重心このあたりをおいて他にないということになってきます。
平本:紙野先生、ここ三重畿央は地域的な位置づけからすれば特別な場所だなあと思うのですが、そういう観点でこの地域の特徴とか首都機能移転地としての貢献をどのように考えたらよろしいのでしょうか。
紙野:畿央地域は中部と関西圏の重なったところにあります。私は国土庁国土審議会の大都市圏部会のなかで検討されております3圏の緊急整備特別委員会で大都市設計核の立案をしております。東北・中部・近畿とあります。そこで2〜3日前に報告してきたばかりなのですが、私中部圏の方にも顔を出しておりまして両方わかっているんですが、それで中部圏も近畿圏と一体になって両圏が競争と協調して現在の首都圏と本当の意味で力比べをできるくらいの新しい日本のセンターをつくろうではないかということを申し上げ考えてまいりました。現在の首都は強力なのでどうしても東の方に拡がって行ってしまう。一方で地方分権が問われている。そういう自由を獲得し2つの重石が均衡とりながら双方が切磋琢磨していく。そういうものをつくるキーになるものは何かというとこれはやはり首都機能なるものを育てればきわめて豊富なキーになります。その事が日本全国にとってどうなのかというと日本全国の国土構造は1つは九州を含めまして西日本、畿央はここに入りますが、そして中部圏・北東圏、その間に首都圏があります。中央部において近畿中部が一体化して1つのマグネットになる。現在の首都圏も首都機能を身軽にして、そこから東京も本当の世界都市になれるのではないかと考えます。今のままの重たい状態ではほんとの世界都市にはなれない。この西日本圏と北東圏が互いにコンタクトし独自に共に成長発達していく、これで現在の国土軸がまさにバランスがとれた国土軸になっていく。相互に自立して競い合う構造に日本がなることを願っておるのであります。
平本:石森さんに、この地域では長い歴史文化の役割を持ってきましたが、それを首都にどう生かしていくのかについてお願いします。
石森:5人で新しい首都機能について議論してきたが、1つまだ充分議論できていないものがあると思うのです。それは今度の首都はまさに21世紀に向かって日本を代表する顔でなければならないということです。首都機能地は日本の象徴機能も持たねばならないだろう。ここに来れば真っ先に日本がわかると、であれば役人や国会議員その家族だけが住む都市ではなくて世界中から観光にめがけてくる首都でなければならない。この観点からしても由緒ある歴史的文化遺産に囲まれた三重畿央は観光首都機能として考慮したとき候補に上がっている3つの中では最も相応しいと考えます。
観光首都機能としてその裏付けは文化歴史首都であることです。そのなかで先ほど佐々木さんがおっしゃられた関西広域連携協議会ができて広域的な観光ネットワークが考えられる。関西という広がりの中でネットワーク化され21世紀の日本を代表をする顔として畿央がその象徴機能もする。またアジア環太平洋文化首都と位置づけられる中でアジア・太平洋文化と日本文化をどう比較していくのかといった手だてに1つの機能として博物館があります。私一番好きな首都のワシントンは巨大なスミソニアン歴史博物館があります。そのなかにある国立航空宇宙博物館は年間800万人集客しています。私の国立博物館は年間30万人で申し訳ないのですが、1つの博物館で800万人の吸引力がある。非常な吸引力があるわけです。博物館都市といった色彩も持って日本文化を正しく世界に紹介され、ここから新しい日本文化の発信が21世紀に向けてなされる機能もあることを考えれば、三重畿央地域は3つの候補地の中で最も大きなポテンシャルを秘めているのではないかと考えております。
平本:一通りお話をいただきまして、ここで会場からの質問にお答えしたいのですが、まず第1点佐々木さんにお答えいただきたいのですが。東京にTV局があって全国に発信されていますが首都機能移転された場合、こういう情報発信の場がどのように変化するかと言ったことを教えていただきたいということなんですが。
佐々木:実際にそうなったらというような議論はまだなされいないのが実状です。東京本社の人間は実際のところほんとに移転するのかなピンと来ないといった受けとめ方です。はっきり確かな予測できない状態です。
平本:それに関して、なかなか議論が高まらないという声があります。マスコミの報道の仕方に工夫いるのではないかという指摘もあるようですが
佐々木:確かに記事が少ないですね。何故か新聞記者の反応が今一なんですが、どうしても業界紙やら目先にいってしまったり、他の記事取材にいってしまうようです。これは反省してもっとベーシックに大きく考える必要あります。
平本:次の質問は金森さんにお願いしたいのですが、昔近畿圏に於いて大和環状線構想というのがあったけれど、どう思うかということですが・・・。
金森:具体的にどういう構想か知りませんが、建設費が非常に多くかかり維持費も高くつく鉄道は、新幹線やリニアは別に考えて、ローカル鉄道は畿央に相応しいかどうかは疑問です。車で用が足りるところはドンドン車使えばよい。鉄道は人工集積地で機能するものであって、地方を活性化するための役割は終わったと、私自身個人的にはそう思っております。
平本:あと幾つか質問がありますが、私で答えることできるものについて回答いたします。
Q1 新首都の候補地が最終決定される時期はいつですかという質問ですが、これ正確には今年の秋の内にと言われておりまして、それでは秋とはいつ頃かというと現在の解釈では11月末までが秋と言えるだろう。12月になると冬だと、そういう解釈になっております。
Q2 次に東京都等の反対でやめにならないかという質問ですが、候補地が決まった場合、それが1つになるのか複数になるのかわかりませんがそれから東京都との比較検討に入ります。この時かなりの議論になるでしょう。それでやめるかどうかは国会の場に持ち出されて、決めるのは国会になります。そこで最終判断として畿央は要らないとか、移転そのものが必要ないという話が出てくればそういう結論になることもあり得ますが、現在のところは移転するんだというプログラムで国会は候補地を決めるため進めているわけです。
Q3 場所の選び方で、どういう単位で選んでいくのかという質問ですが、単位は比較的まとまった土地で評価していきますが、三重畿央地域というまとまったものではなくてもう少し小さい単位で評価して、それらが適当なところで群をなしていれば、それらを1つの単位としてもう一度ここが良いのではないかと評価し直すのではないかと言われております。このあたりはまだきちんと決まっているわけではありませんが、そういうような考え方があるということ、お答えにさせていただきます。
Q4 現在使われている霞ヶ関の施設についてはどうすると言う質問ですが、新しいものはのはオフィスに使い、国会議事堂等は近代博物館に使ったらどうだという話もありますが、現在のところはその辺りまでの議論しかされていないというのが実状です。
最後にまとめさせていただきます。本日は4人のパネラーにお話伺うなかで1つのストリーがあったかとおもいます。
21世紀に入っていくとき、このままの日本ではまずい。もう一度日本を建て直す必要があるだろう。その起爆剤に首都機能移転を考えなくては行けない。という時間軸でのとらえた方がまず1点あったろうかと思います。
空間的地理的軸では、アジアの人々が集まってアジアをどうするかいろいろな議論するとき、その場がない。ヨーロッパにはブラッセルとかあります。アジアにはそういうアジアの都というものが必要である。それを日本につくらなくちゃいけないのじゃないか。これからアジアのリーダーとして日本が責任を果たしていく、また果たしていかねばならない日本、という観点から新首都を考えていかねばならないという課題がありました。
一方日本の内政上の問題ではやはり地方分権、今のままではなかなか抜本的な改革はできない。この実現へテコとして首都機能移転は必要である。これによって日本の国土を多様なものにしていくということがございました。
それでは移転の仕方ですが、必ずしも一括移転でなくて良いではないか。審議会では国会を中心とする分割移転でも良いのではないかという意見も出ています。
ところで東京が業績とかいわば社会経済の変化に対応したもう1つの首都機能の場所とするならば、新しい首都は非常に高級性を持ったステイタスのある首都機能を配置してそういう場所にしてはどうだろう。その中の1つとして司法機能というものを中心に据えたらどうだろうという案がございました。三重畿央地域はどういう位置づけ・特徴があるのかということについては。これからの社会はボーダーレスソサエティ・グローバル化していくなかでそうなればなるほどその国・民族のアイディンティティが必要になってきます。そこで日本人の精神とかアイディンティティがキチンと発揮できる場所として三重畿央地域のような場所に首都がつくられなくてならないのだ。という位置づけが明快になりました。
日本の国土から考えた場合、本当にポテンシャルのある地域といえば東京を中心とする関東の他にやはり関西であり、近畿と中部と一体化した広い地域にそういうものがつくられなくてはいけない。2つのセンターが日本の中にあって独自の発展を遂げていく。そうでないと東京自体も本当の世界都市へなっていけないだろう。というその核をつくるのに三重畿央は場所的に非常に有利であるということが指摘できます。
三重畿央の特色・性格を生かしては、アジア太平洋の文化首都・観光首都機能を中心とするような地域をつくるべきであると。第2回目の大航海時代と世界でいわれておりますが、世界の動きの中でこういった考えを首都機能移転で実現していかなくてはならないのじゃないかということで締めくくりたいと思います。
今日は4人のパネラーを迎えてこの様なストーリーで進んでいったのではないかと受けとめました。どうも長い時間、皆さんありがとうございました。これで終わらせていただきます。